無過失補償制度の導入で若手医師の産科離れを防げるか

賠償金額が少ないのがネック

数ある診療科のなかでも産科は、内科と比べて訴訟リスクが約4倍となっています。通常の過酷な勤務環境にくわえて、訴訟リスクが大きいため、産科を志す若手医師が減少する原因ともなっています。

さらに、産科医の立場からすれば、通常の診療行為を行ったにも関わらず、「帝王切開中の処置が原因で母親が死亡した」と担当医が逮捕(2008年の無罪判決を受け復職)された「福島県立大野大病院事件」は、その流れに拍車をかけることになりました。

そんななか、医師と妊婦双方の負担を軽減するために2009年1月からスタートしたのが、出産時のトラブルで赤ちゃんに重度の脳性まひ、死亡した場合、総額3000万円を支払う「産科医療補償制度」です。条件に該当すれば、医療側の過失の有無に関係なく、補償金が支払われるしくみで、日本の医療では初となる「無過失補償制度」となっています。

公的な制度ですが、新しい法律はなく、大手損害保険会社(6社)が共同運営する民間保険です。登録した妊婦の出産を対象としていますが、実際に保険に加入するのは分娩施設(病院、診療所、助産所)で、その責任をカバーするという形をとっており、2011年現在ではほとんどの施設が加入しています。掛け金の収集、認定審査などは、厚生労働省や日本医師会などが出資する「日本医療機能評価機構」が担当します。

原因を調査するのも同制度の特徴です。医療機能評価機構の設ける「原因分析委員会」が調査結果を産婦側と医療側に伝えて概要を公表し、「再発防止委員会」が集まった事例の分析を公開します。

過失の有無の判断までは踏み込みませんが、重大な過失が明らかな場合は「調整委員会」で検討して医療側に負担を求めることになります。厚生労働省では、年間2300~2400人生まれる脳性まひの子供のうち、500~800人が補償対象になると想定しています。

最大の問題は、補償の範囲が狭いことです。出産時の事故であっても、母親の死亡・生涯、赤ちゃんの死亡、脳性まひ以外は対象になりません。脳性まひでも、軽度の場合、妊娠27週までの早産、先天性の要因や生後の感染症などが原因の場合、子供が生後6ヶ月未満でなくなった場合は除外されます。

一方、合計3000万円では足りないとして親が医療機関に追加の賠償請求をすることも可能です。こうしたことから、訴訟はそれほど減少しないだろうという見方もありますが、各事例の原因分析を元に、教訓が再発防止に活かされれば、それは意味のある制度になるはずです。