臨床研修制度と自治体病院改革のWパンチで地域医療が疲弊

近年、テレビや新聞等のマスコミ、あるいは小松秀樹氏のベストセラー「医療崩壊―立ち去り型サボタージュとは何か」などの医療従事者による本が相次いで刊行されたことを機に、一般の人でも「医療崩壊」の現場で何が起こっているのかを目の当たりにする機会が増えました。

日々の診療に追われ、自分の健康診断を受ける時間すらない医師、長時間労働が過労死に繋がったと医療機関を提訴する家族、モンスターペイシャントの増加など、病院勤務医の過酷な勤務実態、あるいは深刻な医師不足を原因とする救急車の受け入れの困難な状況などがどんどん明らかになっています。

日本では長きに渡って、水と安全と医療を受ける権利が「当たり前」とされてきましたが、現実には、必要な医療を受けることができずに患者が亡くなったり、医療機関の統廃合が進んだ結果、過疎地の住人でなくても産婦人科や小児科を受診するのに1時間以上も交通機関を利用しなければならないという事態も起こっています。

2004年の新医師臨床研修制度のスタートにより、若手医師の大都市志向が顕著になり、全国的に有名な病院に希望者が集まる傾向が強まった結果、地方の医療機関は慢性的な医師不足に陥っています。しかし、同制度が発端とされる「医療崩壊」と呼ばれる現象は、まだ序章に過ぎないというのが専門家の間で共通している意見です。

医療崩壊の第2幕と予想されているのが、2009年に始まった「自治体病院改革」制度です。救急医療や僻地医療などの地方の地域医療を担っているのは自治体病院ですが、これらの分野は経営の面から見ると非常に採算が取りにくく、民間病院では最も敬遠される医療となっています。

このような半ば「赤字は当たり前」となっている不採算の医療を担う自治体病院の経営効率を図ろうというのが、同制度の趣旨となっています。確かに自治体病院の多くは赤字ですので、経営改善が必要なのは間違いありません。しかし、自治体病院で働く医師は、民間病院の医師と比較して年収で大きな差があります。

このような状況で、改革を行うことは医師のモチベーションを奪う可能性もあります。今後数年で地域医療の現場がさらなる危機を迎えている可能性は否定できない状態です。